« 感想:マリア様がみてる「イン ライブラリー」その2 | トップページ | 三奈子さまの暴走(1)その手を握り返した瞳子ちゃん »

蔦子さんのカメラ・被写体:瞳子ちゃん(6)棄てられた人形は拾う手を

 大晦日ですね。大三十日。ざ・ぐれぇと30日。31日ですが。一年が終わって次の一年が始まる、という気がしません。慌ただしくて。ただ、瞳子ちゃんについてのお話は、この日のうちに中心となることの一部でも書いてしまいたいのですね。やはりそれなりのけじめみたいな役目は果たしてくれるようです。
 そんなわけで、ようやく瞳子ちゃんとエイミーとジョアナとアスカの話です。

 瞳子ちゃん視点で描かれた初めてのエピソードが「ジョアナ」(「ライブラリ」収載)です。その感想に、「主人公の温度の低さに驚いた」というものが「マリみてTT」のBBSに載っておりましたが、その「冷たい感じ」は私には違和感のあるものではなく、むしろ自然なものでありました。それは、「子羊たちの休暇」Pp.144-145の場面や、「特別でないただの一日」のこの場面の彼女の様子があったからでしょう。

「何か、もめちゃって、ね。瞳子なんかに言わせれば、どっちだってそう変わらないんじゃないの、って感じのことなんですけれどね。(中略)もう面倒くさくなって別のこと考えていたら、『真剣に考えてちょうだい』なんて双方から非難されちゃうし。とんだとばっちりです」(「特別」Pp.49)

 これを受けた祐巳のモノローグにも重要なことが含まれていましょうが、ここではそれには触れずにおきます。それはおもに祐巳のことだからです。ただ、祐巳も感じているように、

そんなことでクラスメイトたちとうまくやっていけるのだろうか。(同)

 このような不安が起こるのは、無理ないことでしょう。実際、彼女はクラスメイトとうまくいっていたのでしょうか。それに関する記述はありませんが、その代わりのように瞳子ちゃんが演劇部を飛び出すという事件が起こるのです。これを読む限り、実はクラスメイトともうまくいかなくなっている可能性も、十分にあるのです。

 次に、なぜ「ライブラリ」収載の彼女視点のエピソードのタイトルが「ジョアナ」だったのか、「エイミー」ではなかったのかをちょっと推測してみます。
 それを考える上で知っておかなければならないのは、「若草物語」の「エイミー」とはどんな人物なのか、また、「ジョアナ」とは何かということです。そこで、「四人の姉妹(若草物語)」ジョアナとエイミー、ベスについてごく簡単に、「若草物語」本文中の人物紹介をまとめてみます。(参照文献:Alcott, L., M. "Little Women")

エイミー(Emily):画才・わがままであり、それが原因でトラブルを起こすこともあるが、基本的には気だてが良く、周囲に好かれ、いい意味でちやほやされている。努めずとも周囲を楽しませる才能の持ち主。
ジョアナ(Joanna):ベスの人形。ベスの人形はいずれも、古く汚くなり棄てられたものを、彼女が拾ったものであり、ベスはそのいずれにも優しく献身的に世話をする。中でもその愛情が注がれていたのが「ジョアナ」である。かつては姉・ジョーのものだったが、「嵐のような生涯を送ったあげく」、頭の天辺、両手両足が失われ、残骸はずた袋にたたき込まれていた。それをベスが拾った。ベスはぼろぼろになった人形を、針を人形に突き立てることなく(修繕するのではないということ)ケアしたのだ。
ベス(Elizabeth):楽才・物静かで心優しい。献身的に家事を率先して行う。学校に通うことが難しいほどに引っ込み思案。猩紅熱で生死をさまようも生還するが、そのダメージが深く若くして病死。

 ジョアナはひどい扱いを受け、ぼろぼろの残骸になった「棄てられてた人形」であり、それを「拾われた」ので、それ故に「哀れな」と形容されます。ベスは、それをきれいに作り替える(繕う)のではなく、そのままの状態で愛情を注ぐのです。
 瞳子ちゃんは「若草物語」を、エイミーをつかむためにも熟読していたと推測されます。
 これを踏まえた上で、この部分を読んでみます。

 私は握られた手を、そっと引き抜いた。/やさしい手はいらない。私は、ベスの抱いている哀れな人形(ジョアナ)じゃないから。/そろそろ、エイミーに戻らないといけない。だから−。(「ジョアナ」Pp.63)

 気になるのは、「エイミーに戻らないといけない」という部分です。「私はエイミーなのだから、そんなものは必要ない」というニュアンスではなく、「その手を取ってしまったら、私はエイミーに戻れない(ジョアナになってしまう)」というニュアンスがあるように思うのです。
 瞳子ちゃんは、祐巳のその手が「やさしい手」であることはわかっているのです。その上で、「それはいらない」と言って自分から手放して(引き抜いて)しまいます。また、「私はジョアナ」+「じゃない」というように、一回否定しなければ「ジョアナ」になってしまうことを感じているのではないでしょうか。
 これらのことを考えると、彼女の「見た目と地」としての「エイミー」、すなわち「わがままであり、それが原因でトラブルを起こすこともあるが、基本的には気だてが良く、周囲に好かれ、いい意味でちやほやされている」というようにも見える様子は、それが地であるとは言えないのです。むしろそれは、「やさしい手」を解いて我を張っているときに現れる、緊張した状態、(無理に)演じている状態なのでしょう。

ここを受けて、「特別〜」のいくつかの部分を読んでみます。

「(略)部長や顧問の先生方からも、休む前よりも演技に広がりが出た、って評判がいいらしいですし」(乃梨子ちゃんのコメント、Pp.96)

 この部分について、乃梨子ちゃんは「祐巳さまに何か言われたから奮起した」と言っていますが、奮起したと言うよりも、どこか解放された(吹っ切れた?)のではないでしょうか。「エイミーでなければならない」という思い込みから解放された「瞳子ちゃん」だからこそ、より「エイミー」を理解し演じることができたのではないか、ということです。

「約束なんて……」/ふて腐れるような顔をして走りながらも、エイミーはつないだ手を、ギュッと握り返してきた。(「特別でないただの一日」Pp.176)

 ここは象徴的でありましょう。祐巳から見れば「エイミーは」になっていますが、「若草物語」の舞台ははねていますし、瞳子ちゃんからすれば「やさしい手」を握り返しているのですし、もはや彼女は「エイミー」であり続ける必要もなかったし、その時点ではすでに「エイミー」ではなかったのでしょう。このとき瞳子ちゃんは「『ジョアナ』でもいい」と思ったかどうか、それはわかりません。

と、書いているうちに締め切りが近くなってきてしまいました。とりあえずここまでにして、これ以降は新年明けましておめでとうございますとともに書くことにいたしましょう。祝福された一年でありますよう。

|

« 感想:マリア様がみてる「イン ライブラリー」その2 | トップページ | 三奈子さまの暴走(1)その手を握り返した瞳子ちゃん »

「蔦子さんのカメラ」」カテゴリの記事

キャラ別:瞳子ちゃん」カテゴリの記事

マリア様がみてる」カテゴリの記事

コメント

遅くなりましたが、ここのコメントも書かせて頂きます。 
 くりくりまろんさまの所で書かせて頂いたコメントと被りますが、昔『世界名作劇場』(「小公女セーラ」もこのシリーズで観ました)の「愛の若草物語」のアニメを観ていた者ですが、とにかくエイミーとジョオの相性の悪さがとても印象に残っています。(ベスはとても可愛らしい少女ですが・・・)
 これを見る限り、祥子さまと瞳子ちゃんの仲も本当は仲が悪いのでは!?とも思えてしまいます。
 このアニメ内でも、「ベスの人形」は出て来ますが、昔マーチ家が住んでいた家が戦争で燃えてしまい、その家の中から「ベスの人形」が救出されたエピソードも放映されました。(発見者は確かジョオだったような気がします)
 で「ジョアナ」に戻しますが、これを読むに当たって、瞳子ちゃんは夢の中(空想の世界)と現実との区別が出来ていない様な感じにも取れますが、どうでしょうか? (まるで『パラソルをさして』P.187の祥子さまのように・・・)
 こうして読んでみますと、何だか祥子さまと瞳子ちゃんが赤の他人(遠戚だそうですが・・・)に見えないのですが、私の気のせいでしょうか? (他にも二人とも冷静に自分を分析出来る所や、耳を真っ赤にする所等、いくつか共通点がみられます)
 いつも長文になってしまい申し訳ありませんが、これからも執筆の方よろしくお願いします。(くりくりまろんさまに書かせて頂いた内容とほぼ同じ内容になってしまいました。)

投稿: mikky | 2005年1月10日 (月) 23時53分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/54433/46669731

この記事へのトラックバック一覧です: 蔦子さんのカメラ・被写体:瞳子ちゃん(6)棄てられた人形は拾う手を:

» 「エイミーの遺言書」 [『マリア様がみてる』アレンジ日記]
 ごきげんよう 皆さま  いよいよ、新刊「妹オーディション」[http://www.mangaoh.co.jp/topic/maria.php:title]の発... [続きを読む]

受信: 2005年3月31日 (木) 15時34分

« 感想:マリア様がみてる「イン ライブラリー」その2 | トップページ | 三奈子さまの暴走(1)その手を握り返した瞳子ちゃん »