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白堊病棟継承者

 「大きな扉 小さな鍵」を読みながら、「.hack//Roots」のサウンドトラックを聴いていたんです。作曲は「マリみて」アニメ版と同じALI PROJECT(片倉三起也)なので。……で、ふと「マリみて」のサントラを聴いてみてびっくりしました。「.hack//Roots」O.S.t1収載「白堊病棟」という歌があるんですが、これが「マリみて」サントラ収載の「薔薇の館」のメロディーなんです。全く同じフレーズが使われていて、それにサビを加えたものになっているんです。……作曲者が同じだとこういう技も使えるんですね……しかも、この「白堊病棟」、今回の瞳子ちゃんの状況に合ってしまっているフレーズがいくつも使われていることもあって、涙を誘いますよ。
 
 さて。

「マリみて」にはよく類似構造が繰り返される、ということがあります。「扉・鍵」でもそれは言えましょう……片方は由乃に「幸せ過多」なんて言われてしまっているのでわかりにくいですし、もう片方はこの巻で明らかになった、ずっと起こり続けていることなのでしょうけれど……
 そう、一方はPp.80-88の白薔薇さん家のやりとりで、「結局。」こういうことだったものです。

P.89 ~白薔薇さんのところは、仲がいい。お互いに相手を大好きすぎて、すれ違っちゃったという結論に達するわけである。/ああ、阿保くさ。

 もう片方を見れば、「阿保くさ」などと言っていられません。深刻な事態を迎えています。それが、Pp.107-116の部分です。特にここに集約されるでしょう。

P.114 『~……おまえは、自分が何者かなんてことを考えずに、真っ白なキャンバスに自由な人生を描くべきだ。……パパがそう願うのは、おまえを見捨てたからじゃない』
P.115 ~両親が自分のことをこの上もなく愛してくれている、それは疑っていない。けれど~/『瞳子は何も返せない』

 そして、瞳子ちゃんの家の危機を招いた直接の要因というのは、このようなことだと柏木は語ります。

Pp.49 柏木『瞳子の父親は、医者にならなかったから。……病因の行く末とか考える……』/清子『病院の方はうまく行きそうだって……』/どうも瞳子が反対らしくて、と優さんは言った。
Pp.50 祥子『何もお祖父さまやご両親は、瞳子ちゃんにお医者さまになれって強要しているわけではないのでしょう?』/柏木『言ってないね』……

 正直状況がわかりにくいものになっています。書いてある順序で言えば柏木と祥子のやりとりの方が先ですから、さらに謎になります。
 後継者育成および施設にかける資金などの関係上、病院や診療所というのは持ち主の世代間で引き継がれることが多いわけです。まあ、推奨することはできませんが、仕方ない面もありましょう。そのようなことを彷彿とさせる内容がまず柏木と清子さんの間で語られますが、しかし、引き継ぎの筆頭にあげられるであろう瞳子に対して医者になることは望まれているわけではないこともわかります。ではいったい何が起きているのか。
 
 「くもりガラス」では、祥子と柏木が婚約解消を祥子の両親に訴え出て、あっさり了承されますが、このときの祥子の父(融)の言葉があります。
 
(くもりガラス)P.130 『~別に、小笠原の婿養子にならなくても優に仕事を手伝ってもらうことはできるだろう。お前のお祖父さまだって、~たった一人の孫娘にいやがる結婚を強要するほど頑固じゃないぞ。会社は一個人のものじゃない。お前たちのどちらも小笠原グループとは関係ない仕事に就きたければ、別の人間に任せればいい。有能な人間は、我が社にはいくらでもいる』

 これは病院の経営に関しても当てはまることでしょう。必ずしも世代間で引き継がなければならないというものではない。有能な人材に任せていけば、病院という一つのものはその機能を発揮します。
 ここらへんのこと、柏木は、はぐらかしながら祥子や清子と話しておるのでしょう。
 彼がはぐらかしながら語る理由は、おそらく、瞳子を守るためなのでしょう。
 
 では、松平家では、互いを思い遣った結果どのようなことが起こったと予想できるでしょうか。
 瞳子ちゃんのお祖父さまの決定や、両親の想いというのは、「扉・鍵」Pp.114-115のやりとりから、このように予想できます。
 瞳子ちゃんのお祖父さまや両親は、「瞳子ちゃんに、家のことなど考えずに自分の道を歩んで幸せになってほしい」と願い、病院を有能な医師に任せることにした(所有権(理事長が誰になるかについては不明)。
 一方、瞳子ちゃんはこんなことを考えています。

P.115 『瞳子は何も返せない』
Pp.152-153 「それなのに、がんばって幸せを手に入れろというのか。/自分のことだけ考えて、周囲の人たちが不幸になったとしても?/それが、本当の幸せと言えるのだろうか。」

 瞳子ちゃんは、少なくとも心の一部では、『家族のことを考えて』それに反対しているのではないでしょうか。子どもがいない(もはや期待できなくなった、か)松平家は、跡継ぎとして自分を引き取ったはずで、ならば私はその任を全うしなければならないはずではないか……そうしなければ、「手放したくない病院を手放すことになる」=家族を自分のわがままで踏みつけにすることになる、などと考えているのかもしれません。
 
 そして、その思いが衝突することになり、瞳子ちゃんは衝動に任せて感情をはき出した結果家を飛び出すまでにいたり、松平家は危機を迎え、瞳子ちゃんのお母さまは精神的な安定を失ってしまった、と。
 お互いを思い遣る気持ちがすれ違った結果、衝突を起こし、家族の危機を招いたわけです。
 
 白薔薇さんの危機はほんの数分(数十秒?)で通り過ぎ、元の状態どころか「幸せ過多」でイチャイチャという結果になったわけですが、瞳子ちゃんの方はまるでそうはいかなかったわけです。まあ、問題の深刻さからいって当たり前といえば当たり前ですが……
 
 では、瞳子ちゃんに限っていえば、彼女にとってこの問題はどのようなところから発生してきているのでしょうか……?

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コメント

柏木さんの車を探す途中、こちらへ立ち寄った者です。
白堊病棟が面白いお話だったのでコメントさせていただきます。

実はALIPROJECT、以前も同じ事をやっているんです(^^;
アニメ版第1期OP「pastel pure」は蟻プロのアルバム「WISH」に収録されている「夢のあとに」と全く同じメロディーだったりします。
当時、初めてアニメを観た時には驚きと共に混乱したものです・・・

もしかしたら探せば他にもあるのかもしれませんね。

投稿: 通りすがり | 2008年1月 5日 (土) 00時58分

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